わたしの友人でライター・コーディネーターの木村真悠子さんが紹介してくれた「まどろむ酒器」は、わたしのゴキゲンな毎日に欠かせないお気に入りの食器。そんな「まどろむ酒器」を企画・販売している株式会社新越ワークス スリースノー事業部 山後隼人さんに制作秘話などを伺いました。
株式会社新越ワークス スリースノー事業部 山後隼人
1993年燕市生まれ。学生時代は野球に明け暮れる日々を送り、東京六大学野球で活躍したい思いで大学に進学とともに上京し、6年間を東京で過ごす。製造業、食の分野とは無縁の生活を送っていたが、「燕のモノづくり」に可能性を感じ、社会人になるタイミングでUターンを決意。祖父が創業者である株式会社新越ワークスに入社し、現在3年目。飲食店向けの調理道具を製造・販売を行うスリースノー事業部で営業、商品開発等を担当。
取材・文・編集・デザイン:今井みさこ コーディネーター:木村真悠子
今井みさこ:まず、「まどろむ酒器」はどんな商品ですか?
山後隼人:「まどろむ酒器」は、銅と錫メッキ製で製造され、陶器で有名な岐阜県多治見市のある丸モ高木陶器さんが持っている技術である、16℃以下の温度に反応してイラストが色づく特殊な転写シートを酒器の表面に施した酒器になります。
新潟県燕市は金属加工が有名な地域です。当社では飲食店で使う金網ザルをメインに製造・販売をしています。約10年前から、銅と錫メッキを用いた金属製のコップや酒器などを製造をはじめました。錫メッキの効能はお酒との相性がとてもよく、お酒をまろやかにする、雑味を消してくれる、口当たりがよくなるなどが期待できます。
今井みさこ:新潟県燕市と岐阜県多治見市の得意分野でコラボした商品ということでしょうか
山後隼人:はい。地方創生というとその地方だけ、自社だけでどうにかしようとしがちですが、新しいいいものを作りたいと思ったときに、コラボする、掛け合わせるというのは大切になっていると感じます。
今井みさこ:素敵です。
山後隼人:燕市も多治見市も若い人を呼びたい、海外進出したい、地方創生したいなど、似たような境遇にあります。そんな地方同士のコラボが生まれて嬉しいです。
今井みさこ:今回の酒器を企画しようと思ったきっかけはなんですか?
山後隼人:僕が入社した時に課題となっていたことが海外進出でした。
これまで年2回海外の展示会に参加させてもらいましたが、どのような製品が海外で評価されるのだろうかと悩んでいました。
当社は創業当初から国内飲食店向けに金網ザルを製造しているのですが、金網ザルは日本の食文化にマッチした商品です。
日本料理では「漉す・すくう・揚げる・水(湯)を切る」ということが重宝されています。
そんな文化の一部にあるのが、金網ザルです。そういう弊社が大切にしている、日本の食文化の一部を作っているという想いを大切にしながら商品を開発したいという想いがありました。
我々の強みを活かした製品を模索する中で、丸モ高木陶器さんの転写シートに出会いました。このシートを酒器に貼り付け、日本を象徴した美しい模様を浮かびあがらせることで、日本酒と一緒にアピールできるのではないかというアイディアを思いつきました。
この酒器で海外の人に日本食と日本酒をより一層楽しんでもらい、贅沢な時間を過ごしてもらえたら嬉しいなと考え、制作しました。
今井みさこ:この「桜」と「花火」の柄は海外進出を見越したデザインになったということでしょうか?
山後隼人:そうですね。最初は日本を代表とする「桜」をつくろうと決めていました。「桜」は春、「花火」は夏。四季をイメージしています。
木村真悠子:新潟の花火と言えば、長岡まつり!日本の三大花火の一つですよね。
山後隼人:そうなんです。そして花火には元来”疫病退散”の意味が込められています。
パンデミックになって、この状況を”疫病退散”しようという気持ちも込めて「花火」にしました。
今井みさこ:素敵なメッセージが込められていますね。
木村真悠子:株式会社新越ワークスさんとお仕事させていただく中で、心に響く、学びになることばやアイディアをたくさんいただいています。素敵なものづくりを半世紀以上も続けられている。尊敬でしかありません。
山後隼人:そういってもらえて嬉しいです。僕たちは社会的に価値のあるものをつくっていきたいんです。会社の考えのひとつに「道具を含めて文化だ」というがあります。食文化であれば、酒器であったり、ワイングラス、器など、その形であることに長い歴史と意味、ひとの想いがありますよね。
この酒器が海外の人の手に渡ったときに、その精神や文化に触れてほしいんです。
まどろむ酒器も、「卓上でお酒を酌み交わす」という日本酒独特の所作、日本人の「繋がり」を大切にする精神性に着目して作っています。2人でテーブル上で注ぎ合うと、表面の柄が変わっていく様がよく見えますよね。柄の変化をより楽しむために、自然と「注ぎ合う」という体験がしたくなる。
そんな風に、道具を通してその人の視野が広がり、より豊かになっていく、そんなきっかけになりたいんです。
木村真悠子:以前、山後さんが食を楽しむきっかけを「道具をつくる会社」から提案していきたいとお話ししてくださって。とても感動したんです。
今や、おいしいものってありふれていますよね。極端に言ってしまえば、ファストフードからミシュランをとるレストランもある。では、どうすれば”おいしい”という体験を深めることができるのか。行き着くところは、食事の時間をより美しく、より豊かにしたいという想いだと。その体験を増やすために、テーブルに並ぶものをつくっていきたいという想いに、深く共感しました。
ワイン好きの方は知っていて当然かもしれませんが、ワインのグラスは、赤、白、シャンパン用と分かれていますよね。では、日本酒は?と考えた時、日本人でも酒器を変えて楽しむという方は多くないと思うのです。ワイン同様に、日本酒もその特徴をより引き出してくれる酒器を知ることができれば、より楽しめるはずだと言われた時には、なるほど!と大きくうなずいちゃいました。
食とともにおもてなしの心を伝える日本の文化を大切にしている想いが感じられたんです。このまどろむ酒器は、新潟のちょっと辛口な日本酒にあいますよね。
ぜひ、みなさんに体感してほしいですね。食事の時間が豊かになって、さらに、その人の食文化の一部になってほしいと私も願っています。
今井みさこ:素敵ですね。「まどろむ酒器」に日本酒をそそぐときの音も素敵ですよね。見た目、味、音、すべてに刺激があって、よりわたしの食事を彩ってくれています。
素敵な想いも聞くことができて、より愛着がわきました。
次回は、スリースノーさんの取り組みのひとつであるサスティナブルやSDGS(持続可能な開発目標)について伺います!
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